まだまだ蒸し暑い日が続いていますが、そろそろ梅雨も明けも近づき夏本番も迫っていますが、皆様お体の調子はいかがでしょうか?
連載としている65歳からの栄養のことについても早くも10回目となりますが、今回は「摂食嚥下障害」について述べていきたいと思います。
年齢を問わず、食事を安全に美味しく食べることは人としての基本的な欲求であり、生きる喜びを満たし生活を豊かにします。しかし、高齢になると、加齢に伴う口腔と摂食嚥下の機能の変化や疾患などが組み合わさって、次第に食べる機能自体が障害されていくリスクが高まります。今回は低栄養との関連も深い摂食嚥下障害について取り上げたいと思います。
「どこからが摂食嚥下障害?」
私たちが普段何気なく行なっている「食べる」ことは、「話す」「呼吸する」といった全く別の動作とのバランスをとりながら一連のプロセスを辿る「嚥下」というメカニズムによって成り立っています。健康な高齢者の嚥下は本質的に障害されているわけではありませんが、加齢による嚥下機能の変化(老嚥)は起こっており、それに付随して病気や栄養不足、中枢神経系の薬などのストレス要因が加わると、容易に摂食嚥下障害へと移行することがあります。オーラルフレイルの概念では、摂食嚥下障害は「口の機能低下」の次の段階「食べる機能の障害」にあたります。今のところ摂食嚥下障害について明確な定義はなく、また何を境に口腔機能低下症が摂食嚥下障害へ移行したと判断するか基準もまちまちですが、食事の形態に特別な配慮(調理の工夫)が必要かどうかで考えるとわかりやすくなります。
「摂食嚥下障害の主な原因は3つ」
摂食嚥下障害の原因には大きく分けて①脳卒中、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの神経難病、アルツハイマー型認知症などの中枢神経障害②頭頸部がんや頚椎の骨増殖症(骨棘形成)など咽喉部の形態が変化してしまう病気③サルコペニアなどの摂食嚥下障害があります。サルコペニアの摂食嚥下障害は近年注目されている新しい原因の摂食嚥下障害で、嚥下関連筋の筋肉量減少と筋肉量減少と筋力低下によって引き起こされるものをいいます。摂食嚥下障害は単一の病気ではなく原疾患によって現れる症候群(症状)です。初期にみられる典型的な症状には、むせ、飲み込みづらい、飲み込むことが苦痛に感じるなどがありますが、その後の経過は背景にある原因によって変わります。例えば、サルコペニアの摂食嚥下障害であればサルコペニア対策を講じたかどうかで、進行することも現状維持または改善することもあります。
「摂食嚥下の5段階」
摂食嚥下は食べ物を認識して口に運び、口腔内で飲み込みやすい形(食塊)にして、咽頭や食道を経て胃へ送り込むという運動を指します。このプロセスは先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期の「摂食嚥下の5期」に分けて考えることができ、5つの段階のうちのどこかで障害レベルの問題を抱えているのが摂食嚥下障害です。言い換えれば、摂食嚥下障害と一括りにされてはいますが、認知症で食物認知がうまくいかない人たちと、「ごっくん」と食道に送り込めない脳卒中の人たちは、障害される段階が全く違うということです。そのため摂食嚥下障害は原因がどこにあるのかを考えることが重要になります。
「摂食嚥下障害で生じる問題」
摂食嚥下障害で最初に懸念される健康上の問題は窒息です。肺炎(誤嚥性肺炎)、低栄養のリスクも高まり、さらに食べる楽しみ、飲み込む喜びを失うという心理的な問題も生じ、生活の質(QOL)が低下します。反対に、低栄養の人やサルコペニアの人は摂食嚥下障害を起こしやすいことがわかっています。低栄養やサルコペニアは要介護にもつながり、実際、アメリカのナーシングホーム(医療・介護施設)では入所高齢者の約4割に摂食嚥下障害疑われるとしています。正確な調査はありませんが、おそらく日本の要介護高齢者の有病率も同程度と考えてよいでしょう。また、口腔衛生や口腔機能への関心が低い人も、口腔機能低下症から次の段階に進みやすいので要注意です。生死に直結する摂食嚥下運動の筋機能は、実は身体のほかの筋機能よりも機能的な余力があり、後期高齢者の中には摂食嚥下に問題のない人も多くいます。早期から口の健康に介入し栄養不足を防ぐことで、サルコペニアの摂食嚥下障害は予防できる可能性が高くなります。
「老嚥とサルコペニアの摂食嚥下障害」
摂食嚥下障害は従来、嚥下関連筋をコントロールする中枢神経が障害される脳卒中などに起因して、通常の形態の食事を食べることが困難になる病気という見方をされてきました。そこに10年ほど前から新たな原因として研究が進められてきたのが「サルコペニアの摂食嚥下障害」です。サルコペニアの摂食嚥下障害とは、全身と嚥下関連筋の両方にサルコペニアを認めることで生じる摂食嚥下障害で、全身のサルコペニアと診断された人が全て発症するかというとそうではありません。一方で、高齢者には「老嚥」と呼ばれる加齢による嚥下機能の低下も起こってきます。老嚥は口腔乾燥、咀嚼筋力低下、反射機能の低下といった生理的変化で、摂食嚥下機能に障害はありませんが、健常者に比べて食べ物が飲み込みづらく誤嚥のリスクが高い状態と捉えることが出来ます。